寄稿文

【風景のロングパス_6】人の住まう場所

sun-kyoプロジェクト・設計チームの趙 海光さんによるエッセイを、全12回に渡ってお届けします。
タイトルである“風景のロングパス”には「遠い先の誰かに、この風景をロングパスしよう」というこのプロジェクトへの想いが込められています。



人の住まう場所

 私の職業は建築の設計で、その多くは住宅です。で、そのほとんどが「一つの敷地に一軒の家」という仕事なので、今回のようなチャンスは滅多にありません。だって、屋敷林という一まとまりの環境の中に、小さいとはいえ住まいの群を設計しようというのですから。 

 建築の世界では一時期(1960年代のことですが)集落の調査が盛んでした。辺境の漁村や宿場町(妻籠など)のデザインサーベ(実測調査)が毎年のように実施され、実測図なども出版されたのですが、不思議にもそれが実際のまちづくりに反映することはなかったみたいです。 

 人の住まう場所として「おお、これぞ現代の集落の風景!」と感じた記憶が、私にはありません。私たちの住まう場所は相変わらず輪郭のはっきりしない、町という茫々たる広がりのなかです。 

 深夜、一人でコリコリと色鉛筆を動かしながら「屋敷林のなかに、住まいの小さな群が、クリヤーな輪郭をもって出現したらきっと面白いだろうな‥‥」と考えて、私はちょっとドキドキしました。 

模型写真

【風景のロングパス_7】木々の見取り図へつづく

趙 海光(ちょう・うみひこ)
株式会社ぷらん・にじゅういち代表。一級建築士。

1948年、青森県生まれ。1972年、法政大学工学部建築学科卒業。1980年に株式会社ぷらん・にじゅういちを設立。1990年代には台形集成材を使用する一連の木造住宅「台形集成材の家」を設計。一貫して国産材を使用する現代型木造住宅の設計を続け、建築雑誌へ木造住宅についての論考を多数発表。国産材の開発と普及に努める。2007年以降は「町の工務店ネット」と共同で、日本の町家建築に学んだスタンダードな木造住宅を目指す「現代町家」シリーズに取り組んでいる。