【風景のロングパス_10】⼿渡された⾵景

sun-kyoプロジェクト・設計チームの趙 海光さんによるエッセイを、全12回に渡ってお届けします。
タイトルである“風景のロングパス”には「遠い先の誰かに、この風景をロングパスしよう」というこのプロジェクトへの想いが込められています。
手渡された風景
杉を伐り、藪を開き、密に絡んだ⽊⽴を間引いた結果、現れたのは予想外に多種類の⽊々です。樹種は全部で16種、うち落葉樹が8本、常緑樹が11本で合計19本。以下がそのリストです。(⾚字のカキはその後クマの害を防ぐため、キリは腐⾷のために伐採しました。)

すっかり疎(まばら)になってしまった屋敷林ですけれど、でもおかげで個々の⽊の姿がクリヤーになりました。東の⼟⼿にはエノキが⼀本だけ残り、その幹は傾いで、枝は何かに引っ張られたように北に靡いています。また、北の境界近くのイヌシデは四⽅に思いっきり枝を広げ、⼟地のほぼ真ん中にはタラヨウの⽊が濃い常緑の葉を茂らせていて、⿊光りする常緑の葉って、こんなに綺麗なんですね。
その屋敷林は⾏くたびに違う姿を⾒せます。タイサンボクが純⽩の花をつけていたり、⾬⽔がタラヨウの少し盛り上がった根元を流れていたり、地⾯いっぱいに薄茶⾊の綿⽑が散っていたり‥‥何度か通ううちに、私はその林がすっかり好きになりました。そこにいると何か「ものすごーく複雑なもの」に触れた感じがするのです。
「複雑なもの」とはつまり、地表を舐めるように吹く⾵、幹を這う⾍たち、そういった微細でローカルなものたちが発する振動のようなもので、 確かに⽊を伐ったのは私たちなんですけれど、でも現れた⾵景はそれを感じさせません。
そこにはもっと⼤きな、⼈間外の⼒が働いていて、私はその⾵景が「知らない誰か」に⼿渡された、みたいな感じがしてきました。「ここまでやっといたから、後はよろしくね!」みたいな。

1948年、青森県生まれ。1972年、法政大学工学部建築学科卒業。1980年に株式会社ぷらん・にじゅういちを設立。1990年代には台形集成材を使用する一連の木造住宅「台形集成材の家」を設計。一貫して国産材を使用する現代型木造住宅の設計を続け、建築雑誌へ木造住宅についての論考を多数発表。国産材の開発と普及に努める。2007年以降は「町の工務店ネット」と共同で、日本の町家建築に学んだスタンダードな木造住宅を目指す「現代町家」シリーズに取り組んでいる。