【風景のロングパス_11】ローカルな応答

sun-kyoプロジェクト・設計チームの趙 海光さんによるエッセイを、全12回に渡ってお届けします。
タイトルである“風景のロングパス”には「遠い先の誰かに、この風景をロングパスしよう」というこのプロジェクトへの想いが込められています。
ローカルな応答
最初にこの屋敷林に⾜を運んだのが春で、その翌年の夏の初めですから、⼀年以上も経ってからのことです。現場にプロジェクトメンバーが勢揃いしました。 設計から外構、造園チームまで含めて総勢10名以上。こんなに⼤勢だったんですね。
集まったのは建物の具体的な位置を決めるため。初期の段階で⼤まかな位置は決めていたのですけれど(第5話参照)、果たして本当にそれで良いのか、プロジェクトメンバー全員で検証しようというわけです。(まあ、普通は設計チームだけで決めちゃうんですけどね、今回はみな、やたら気合が⼊っていて現場が熱気に溢れました。)さて実際に現場で縄を張ってみると、やはり違うんですねえこれが。
いや、建てる場所はOKなんです。「違う」というのは建物の向きのこと。初期の設計段階ではセオリー通りに4軒とも南に向けていたのです。しかし現場に⽴ってみると、どうもしっくりこない。 そこで縄をみんなで持ち上げて、少しづつ建物の向きを変えてみました。あっちの家を右に、こっちの家を左に、 あれこれ向きを変える作業を何度も繰り返して、やがてようやくみんなが納得した配置にたどり着いた時には、4軒の家がみな、てんでんばらばらな⽅向を向いてしまっていたのです。
現場で決めた建物の位置を図⾯に落とし込んでみると、なんだかすごくヘン。でも、ジーとその配置図を眺めているうちに「これしかない!」と思えてきました。図⾯だけで考えていたら絶対に辿り着かない配置形なんですけどね。
その歪な配置の形は「ローカルな応答」の正しさを教えているんだと思います。設計という仕事はついグローバルなビジョンに頼りがちで(「セオリーだとこうだから」とか「普通はこうするから」とか)、でも本当に⼤事なのはグローバルなビジョンからこぼれ落ちた多様なものなんですよね。それに向き合うのは現場ごとのローカルな応答しかない。ちょうど私たちが現場で縄を持って右往左往したみたいに。

建物の位置決め図

1948年、青森県生まれ。1972年、法政大学工学部建築学科卒業。1980年に株式会社ぷらん・にじゅういちを設立。1990年代には台形集成材を使用する一連の木造住宅「台形集成材の家」を設計。一貫して国産材を使用する現代型木造住宅の設計を続け、建築雑誌へ木造住宅についての論考を多数発表。国産材の開発と普及に努める。2007年以降は「町の工務店ネット」と共同で、日本の町家建築に学んだスタンダードな木造住宅を目指す「現代町家」シリーズに取り組んでいる。