ストーリー

外構に活きる – 記憶を宿す庭、未来を育む外構

建物が完成したとき、そこにあるのは「新しい家」だけではありません。その足元には、かつてそこにあった営みや、長い時間をかけて育まれた土壌の記憶が眠っています。ここsun-kyo立山利田に建つ4つの家。それらをつなぐ外構には、単なる装飾を超えた「継承」の物語があります。元の屋敷にあった石や瓦、古木を新たな役割でよみがえらせ、地形の起伏さえもデザインに取り込む。 外構で「生きる」こと、そして外構に「活きる」こと。こうした懐かしくも新しい、4棟の風景をご紹介します。

① 「タイサンボクの家」の小屋

深い軒が室内と屋外の境界を曖昧にし、緩やかな中間領域を生み出している「タイサンボクの家」。その軒下からウッドデッキへとつながった先にある小屋は、単なる付属物ではなく、暮らしを広げる「離れ」としての役割を担います。内部には流し台も設けられ、サンダル履きのまま気軽に行き来できる軽やかさが、日々の生活に余白をもたらします。 

裏手に回れば、大石を積み上げた野趣あふれる階段が。石の合間には、かつてこの地にあった大木の切り株がそのまま残されており、新たな石積みと古き切り株が静かに調和し、この場所固有の風景を作り出しています。

②「イヌシデの家」のアプローチ

常願寺水系の玉石、旧屋敷の瓦、そして石臼。かつてこの地で役目を果たしていた素材たちが、庭師の手によって新たな配置を与えられ、足元を彩ります。その表情は、遊び心を含みつつも静穏な和モダンの趣が漂います。

雨や泥跳ねから建物を守る「雨落ち」にも古瓦があしらわれ、機能と意匠が美しく融合しています。

③「イヌシデの家」と「クロガネモチの家」の間に流れる小川と石橋

敷地内には、雨の日や融雪の季節にだけ現れる「水のみち」があります。 高低差のある「エノキの家」「タイサンボクの家」側から流れてくる水は、この小川を伝い、「イヌシデの家」と「クロガネモチの家」の間を抜けて外部の水路へと排出されます。この循環は、土壌環境を整え、植物の健やかな生長を促すための大切な仕組みです。

見えない部分ですが、水路の下には水はけを良くするために、MAEKAWAグループの社員総出でこの土地から出た玉石を埋め込みました。そこに架かるのは、かつての屋敷の池で使われていた石橋。役目を変えながらも、橋は変わらずここで水をまたいでいます。

④「クロガネモチの家」の前に設けられた柵(しがらみ)

「クロガネモチの家」の前には、どこか懐かしさを感じる竹の柵が築かれています。これは、木杭に竹を絡ませ、藁と土で仕上げる伝統的な土留め工法です。幾重にも竹を絡み合わせるその構造は、柵としての強度を生む一方で、人間関係や精神的な束縛を意味する言葉、「しがらみ」の語源ともなりました。言葉のルーツを可視化するような、先人の知恵と歴史を感じさせる景色です。

昔ながらの手仕事で編み込まれる製作中の柵
土と緑になじむ完成後の姿

⑤「エノキの家」のアプローチと石の庭

元の地形を活かし、小高い場所にたたずむ「エノキの家」。駐車場から玄関へと続く道には、自然石の飛び石がリズミカルに配され、緩やかな階段状のアプローチに。駐車場の角には力強い大石が積まれ、裏庭へと回れば、コンクリートデッキと石積みの階段が呼応する空間が広がります。まるでロックガーデンのような、荒々しくも洗練された石の庭が、住まい手の遊び心を刺激します。

⑥ 継承される大木と植栽

ここには、各棟の名の由来となったシンボルツリーに加え、敷地の歴史を見守ってきた美しい樹木たちが残されています。中でも目を引くのが、敷地中央に鎮座する「タラヨウ(多羅葉)」の大木です。円錐形に整った美しい樹形もさることながら、この木には物語があります。葉の裏を傷つけると文字が浮かび上がることから「葉書」の語源となり、実際に切手を貼れば郵便として届く不思議な木。

その他にも、各戸の窓辺には視線を優しく遮る木々が植えられ、プライバシーを守りつつ、四季折々の借景を室内へと届けます。

時とともに深まりゆく風景

太陽の傾きによって表情を変える木漏れ日、雨の日だけ現れる小川、そして季節ごとに色を変える木々。sun-kyo立山利田の外構は、完成した瞬間がピークではなく、植物の生長や石の風化とともに、より深く、美しく変化していくように設計されています。

カーテンを閉め切る必要のない開放的な暮らしの中で、住まい手たちは日々、窓の外に広がる「生きている風景」を感じることでしょう。 土地の記憶を受け継ぎ、新たな家族の時間を刻み始めたこの場所は、数年後、数十年後、さらに味わい深い森のような場所へと育っていくはずです。