【風景のロングパス_5】屋敷林のリノベーション

sun-kyoプロジェクト・設計チームの趙 海光さんによるエッセイを、全12回に渡ってお届けします。
タイトルである“風景のロングパス”には「遠い先の誰かに、この風景をロングパスしよう」というこのプロジェクトへの想いが込められています。
屋敷林のリノベーション
私が考えたのは「屋敷林を『住まう場所』としてリノベーションする」ということです。それも一軒ではなく、数軒が住まう場所として。
放っておけば、遠からずこの屋敷林は宅地開発業者に買い取られ、周囲の水田も合わせて埋め立てられ、造成され、今の屋敷林は跡形もなく消え去るでしょう。事実そういう例が周りに出始めています。そうなる前にこの屋敷林を現代の暮らしに合わせてリノベできないか。
頭に浮かんだのは4、5軒の家が集まった群、小さな村のイメージでした。
家と家は木立を挟んで少し離れて建ち‥‥間に塀などはなく、屋敷林という里山的環境を分け合って暮らしている‥‥車はどこか一箇所に集めて‥‥雨を浸透させる小道を巡らせて‥‥
ゆっくりとイメージを固めていきながら、私は通常の宅地造成とは逆のやり方をしようと考えていました。つまり「造成をしないこと、車道をつくらないこと、そしてできるだけ多くの木を残し、それをメンテナンスする体制を住民が持つこと」。
このあと、かなりの時間を投じて私がまとめたのはこんな案です。家は4軒。車は道路側に一箇所にまとめ、果樹とベンチのあるコモンスペースからそれぞれの家に小道が通じている、といった具合。計画図をご覧ください。

【風景のロングパス_6】人の住まう場所 へつづく

1948年、青森県生まれ。1972年、法政大学工学部建築学科卒業。1980年に株式会社ぷらん・にじゅういちを設立。1990年代には台形集成材を使用する一連の木造住宅「台形集成材の家」を設計。一貫して国産材を使用する現代型木造住宅の設計を続け、建築雑誌へ木造住宅についての論考を多数発表。国産材の開発と普及に努める。2007年以降は「町の工務店ネット」と共同で、日本の町家建築に学んだスタンダードな木造住宅を目指す「現代町家」シリーズに取り組んでいる。